本読み月記


【ジャンル分け】 最初から日本語で書かれた小説。
最初から日本語で書かれた小説以外。
日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説。

日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説以外。

コミックス


『夜更けのエントロピー』 ダン・シモンズ(訳:嶋田洋一) 河出書房新社
図書館。
短編集。「黄泉の川が逆流する」「ベトナムランド優待券」「ドラキュラの子供たち」「夜更けのエントロピー」「ケリー・ダールを探して」「最後のクラス写真」「バンコクに死す」の7編入り。
ダン・シモンズはこれまでに『ハイペリオン』と『ハイペリオンの没落』しか読んでおらず、『ハイペリオン』は凄かったものの、ここまで凄みのある作家とは思っていなかった。
母の死と復活に始まる家族の崩壊を少年が淡々と語る「黄泉の川が逆流する」(最後の一文に5秒くらい固まった)と、ロメロのゾンビ三部作その後な世界で学校を運営し続ける初老の女教師を描いた「最後のクラス写真」が、すげー好き。ベトナム戦争時のベトナムを模したテーマパークで客たちがレジャーとして作戦を遂行する「ベトナムランド優待券」も、最後になんともいえないカタルシスがあったし、チャウシェスク政権崩壊直後のルーマニアが舞台の「ドラキュラの子供たち」はすげー怖かった。吸血鬼が出てきたときほっとしたくらい怖かった。


『ルート350』 古川日出男 講談社
図書館。
短編集。「お前のことは忘れていないよバッハ」「カノン」「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」「飲み物はいるかい」「物語卵」「一九九一年、埋め立て地がお台場になる前」「メロウ」「ルート350」の8編入り。
籠から逃げ出したハムスターが家の中でたくましく生き抜いていることに少女たちが希望を託す「お前のことは忘れていないよバッハ」と、幽体離脱した少年が三人の同級生を観察する「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」と、離婚したての男がひょっこり出会った少女と神楽坂を旅する「飲み物はいるかい」が、すげーよかった。


『月刊たくさんのふしぎ ぼくたちのロボット』 瀬名秀明(絵:影山徹) 福音館書店
図書館。
世界初のヒト型ロボットを作った加藤一郎と、ロボット技術の歩みを、平易で明快な言葉で綴った絵本。
加藤博士、「パトレイバー」の何巻だったか、グリフォンの動きを美しいと言っていた初老の博士を思い出した。あのシーン、わたしの中で鮮烈に残っているが、あれこれ検索してみたが、そのシーンについて言及している人を見つけられない。読み返したいが、手元に本がない。


『地と海の王』 末吉暁子 講談社
図書館。
上の瀬名秀明を探している途中、児童書コーナーで見つけた。
アッタリ〜♪♪♪
「古事記」「日本書紀」の上代のエピソード、「海幸彦山幸彦」や、天戸開きや、いざなぎいざなみ夫妻がひるこを海に流す話等、をパーツとして使い、別の物語として組み上げなおしたもの。
ものすごくいい仕事っした。


『まんまこと』 畠中恵 文芸春秋
図書館。
新シリーズ。かな? 単発かな?
江戸が舞台の連作短編ミステリ。「まんまこと」「柿の実を半分」「万年、青いやつ」「吾が子か、他の子か、誰の子か」「こけ未練」「静心なく」の6編入り。
今度の主役は名主の家のお気楽な跡継ぎ息子。彼が些細な謎に巻き込まれたり、相談を受けたりして、それを解決する話。「吾が子か…」に出てくる、亡き息子の忘れ形見を探す爺さん、勝手だなーと思いつつも、そういう気持ちはよくわかってしまって、なんだかなー。「柿の実を半分」とかはほっこりしたいい話だったっす。


さきの巷説百物語』 京極夏彦 角川書店
図書館。
第一冊目の『巷説百物語』以前、又市が御行姿になるまで、というか、又市が仕掛けのスタイルを確立していく話。
寝肥ねぶとり」「周防大蟆すおうのおおがま」「二口女ふたくちおんな」「かみなり」「山地乳やまちち」「旧鼠きゅうそ」の6編入り。
まだ双六売りだった又市は損料屋という今でいうレンタル屋みたいな店(貸すことによって貸したものはいくらか痛む。その痛み分が店が客に請求する「損料」)の仕事を手伝うことになるのだが、その損料屋は普通の損料屋より守備範囲が広く、又市が手伝うのは当然、鍋や布団ではない特殊な損を埋める仕事である。6人死ぬところを1人で納める。その1人はそもそもの損の発端だ。あるいは、その男のせいで何十人もの女が不幸になり、中には首をくくった女も幾人もいる。その男をうまく陥れたところ、そのせいで男は切腹する。普通はどちらも天晴れな仕事だが、又市は思い悩む。「救ったのじゃねえ、俺は。一人殺しちまう図面しか引けなかったんだ」(207頁)、「−−−−仕返しじゃ駄目なんだ。 やったやられたで恨み辛みは消えはしない。最初に仕掛けたほうが悪いのだとしたって、結局は鼬ごっこである。怨恨も悲しみも、行ったり来たりするだけだ」(333頁)。
最初は又市の悩みぶりがちょいうっとうしかったのだが、あとにいくにつれ、だんだん胸にしみてきた。無宿人たちを手足のように悪事に使う謎の男祇右衛門の逆鱗に触れた損料屋一味はつけ狙われ襲撃され幾人も殺される。追い詰められた状況で荒事専門の山崎が又市に言う。「人死には出すな。死んで取る得、殺して取れる得はないと、お前さんは先からそう言ってただろ。真理ほんとだよ。欠けた命の穴ァ、他のものじゃ埋められないわなあ」(623頁)。
ガツンときました…。
思わずくだくだ書いてしまいましたが、ちゃんとした娯楽小説です。巷説シリーズの仕掛けの妙は十分楽しめます。
ところで祇右衛門事件は最後一応収束するのだが、肝心の黒幕は正体不明、野放しのまま。こりゃまた続編待ちかい、と思ったのですが、ググってみたところ、『続巷説百物語』の「狐者異」でこの祇右衛門事件が解決されているらしい。うう、ぜんぜん記憶にない…。よ、読み返さねば…。


『マジック・サークル』上下 キャサリン・ネヴィル(訳:大瀧啓裕) 学研
図書館。
『8』、『デジタルの秘法』以後、出てないと思ってたキャサリン・ネヴィルだが、美原図書館でひょっこり出くわした。なんと4年前に出ていた。どえーっと思って調べたが、これだけで、この後はなにもでていない。ネヴィルのオフィシャルも覗いてみたが、この3冊しか書いていなかった。
アメリカ在住、父は実業家、母はオペラ歌手、本人は核施設にセキュリティ担当として勤めているエアリアルのもとに、従兄サムの訃報が届く。サムが父から相続した「パンドラ文書」をエアリアルに遺すと遺言していたことから、彼女は文書をめぐる陰謀に巻き込まれる。
系図とかはけっこう得意なほうなんですが、あとからあとから出てくる親族関係の新事実にすげー混乱させられました。新事実出るたんびに書き直した系図を掲載してほしかったくらい。
話はエアリアルが謎を追う現在の部分と、キリストの弟子たちの話とを、行ったり来たりするのだが、過去の話に出てくる「宝」の隠し場所を記した文書が脈々とエアリアル一家へ受け継がれたかと思いきやそうでなかったことにがっかり。


『らせつの花』2 潮見知佳 白泉社
『幻惑の鼓動』15 禾田みちる(原案:吉原理恵子) 徳間書店
『とかげ』2 灰原薬 一迅社
3冊とも吉田祐子が貸してくれた。
あかん、感想文書かんと返したら、細かいエピソードとか、もうぜんぜん覚えてねー。


玻璃の天』 北村薫 文芸春秋
映美ちゃんが貸してくれた。
『街の灯』の続編。学習院に通うお嬢様英子と彼女の家のお抱え運転手ベッキーさんが謎を解く話。ベッキーさんのあだ名の由来である『虚栄の市』については、ここに書いたとおり。
「幻の橋」「想夫恋」「破璃の天」の三編入り。「破璃の天」ではベッキーさんこと別宮の背景が明らかにされる。
段倉という国粋主義者が登場する。「幻の橋」でその底の浅さが描かれ、「破璃の天」で殺される。こーゆー奴、きっとまだどこかにいて、それなりに影響力もってたりするのかな? TVとかに登場する中でこいつに一番近いのって石原慎太郎だが。

(これを書いているのは参議院選の翌日なのだが、今回の選挙関係ニュースで一番心に残っているのは、運動期間中、「今回の選挙、第九条は争点になりますか?」との質問を受けた民主党のわりと若い立候補者が「ならないでしょう。毎日いろんな人から年金や天下り等について陳情を受けますが、憲法第九条をなんとかしてくれ、という人にはまだ会ったことがありませんから」と軽くいなしていたこと。言われてみればそうだよな。「第九条、ほんまなんとかならんかな」とかぼやいてる人、ひとりもいないもん。いったい誰がそんなに「第九条、ほんまにどないかならんかな」と思ってるんだろ、いるならどこにいるんだろ)


『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』 大崎梢 東京創元社
『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ・出張編』 大崎梢 東京創元社
『サイン会はいかが 成風堂書店事件メモ』 大崎梢 東京創元社
これまた映美ちゃんが貸してくれた。
ミステリ。語り手の「わたし」は駅前ビルのわりと大きな書店の書店員、謎解き役の多絵は大学生のアルバイト店員。
『配達あかずきん』と『サイン会はいかが』は短編集で、それぞれ五編入り。『晩夏に捧ぐ』は長編。
本屋に夢はもっていない。こんな本屋があったらな、とかもぜんぜんない。昔、コミックの新刊の発行部数が少なくて、発売日に新刊にありつけないことが多かった頃、まんが専門店が深井の駅前近くにあると聞いて出かけ、店内に入ってその品揃えの見事さに「おおっ、夢のような本屋だっ」とうっとりしたが、時代は流れ、あらかじめ発売日を調べてインターネットで予約している昨今、本屋は雑誌の立ち読み場所兼雑誌屋さんとなっている。(雑誌を立ち読みしたり買ったりする必要が出てきた数ヶ月前からですが。それまで雑誌とかってほとんど読まなかったから) ので、「わたし」が主張する本屋のクォリティについては共感もなんもなかったんですが。(本屋でちょっと絶望することはある。世の中こんなにいっぱい本があるのに、自分の口に合うのがほんの一握りの本なことに)
面白かった〜♪♪♪
読後感最高だったのは『配達あかずきん』の「標野にて、君が袖振る」。これはもう、最高に心地よい結末であった。「六冊めのメッセージ」もほっこりしたいい話だったな。『サイン会はいかが』の、「バイト金森くんの告白」もよかったっす〜。
ところでわたしは大学時代、ほんの数ヶ月だが本屋でバイトしたことがある。夕方のバイトなので雑誌出しの苦労とかは知らないが、バイトして一番びっくりしたのは、「時刻表」の発売日の、それをレジにもってくる人の多さ。あんなん誰が買うんだ?と思ってたら、あんなにいたのねー。


『女にこそあれ次郎法師』 梓澤要 新人物往来社
図書館。
ひこにゃんの彦根城だの安政の大獄だので有名な井伊家で、徳川家康に仕えた井伊直政の叔母…じゃないな、直政の父ちゃんといとこだったから、ちんば従姉だな、で、若くして出家して、父やいとこが亡くなったあと、直政が成長するまで家を支え後見を務めた女性の一代記。
すんません、井伊家ってわたしこれまで、三河以来の徳川直参だと思ってました。違ったのねー。今川支配下にあった家だったのねー。家康が鷹狩りに行ったとき颯爽と現れた直政、っていうシーンも、なんか有名らしいんだけど、知りませんでした。
ところで話としては、なーんかカタルシスがなかった。不遇、不遇、不遇……、でさー。直政の成功も、次郎法師の教育とかじゃなく、こいつ生まれたときから傑物だったんじゃねーの、誰が育てても成功してたんじゃねーの?って感じで。


『牛泥棒』 木原音瀬 蒼竜社
新品購入。
今年4月に書名の色区分変えてから初めての乙女のためのホモロマンス小説じゃないか?
時代は明治の終わり頃、かな? 坊ちゃん×年上のお守役。「百鬼夜行抄」とか「雨柳堂夢咄」に近い感じのオカルト風味。
アタリ〜♪ 依田沙江美の挿絵もいい感じ〜♪
(依田沙江美といえば、ブックスケジューラーに数ヶ月前、「真夜中を駆け抜ける」3巻発売予定と出たのに、まだ出ない。いつだろ)


『おうちがいちばん』2 秋月りす 竹書房
新品購入。
つぐみのダンナの両親登場。特に母、いい味だしている。
つぐみの父の会社の社長もいい感じだ。
今回一番笑ったのは、15頁「白昼の死角」。これ、好き、むっちゃ好き〜。


『モノレールねこ』 加納朋子 文藝春秋
図書館。
いやー、待ったぜ。映美ちゃんによると高石図書館は、予約待ちもなく、開架に並んでたそうだが、よくよく思い出してみれば少し前まで堺市も、加納朋子の新刊出てもすぐ借りられたんだよなー。んで、なんでこんなに面白いのにみんな予約しねえんだっとか怒ってたんだわ、あたし、あはははは。
短編集。表題作に「パズルの中の犬」「マイ・フーリッシュ・アンクル」「シンデレラのお城」「セイムタイム・ネクストイヤー」「ちょうちょう」「ポトスの樹」「バルタン最期の日」の8編入り。
表題作、途中でとても悲しいことが起きる。が、結末のカタルシスの勝ちであった。他の話も、ひとつ違えばものすごく後味が悪かったりしそうな話が多かったのだが、どれも心地よい着地を見せてくれた。


『グーグーだって猫である』3 大島弓子 角川書店
新品購入。
出てるのを知らず、葉子ちゃんに教えてもらって、あわてて注文した。
タマに3回ほど泣かされた。一番胸が熱くなったのは、47頁の6コマ目。それにしてもグーグーって、柄は違うけど、新入りを暖かく迎え入れるとことか、一歩ひいた遠慮がちなとこが、うちの紳一に似ている。ビィーの心の狭さ加減も巳夜子に似てるしー。
これも葉子ちゃんに教えてもらったが、グーグー、映画化されるそうだ。大島弓子役は小泉キョンキョン、どひゃー。Nさんには蒼井優あたり希望。池脇千鶴か、中越典子もいいなあ。


『少年陰陽師 果てなき誓いを刻み込め』 結城光流 角川ビーンズ文庫
新品購入。
珂神編完結。
八岐大蛇みたいな大怪獣出てくるわりには、人けのない場所での闘争だったもんで、うら寂しくて地味だったなー。すでに解決したはずのネタ引っ張り出してきたりだし、我慢我慢の連続だしー、あ、こいつら絶対辛いほうにしか行かないって奴らもその通りだしー。


『ここではない☆どこか1 山へ行く』 萩尾望都 小学館
新品購入。
シリーズ名のサブタイトルにいま気づいた…。
「ゆれる世界」が一番好きかなー。ほんとに心地のよい話だった。「駅まで∞」もありがちな話なんだけど好きー。


『碁娘伝』 諸星大二郎 潮出版社
新品購入。
文庫版発売情報で、こんなんが出てたのを知る。が、うちの諸星は大判基本なので、やっぱり大判で買ってしまった。
美人で、碁が強く、武芸の達人でもある碁娘ごじょうが、親のかたきを討ったり、悪者を退治したりする話。碁娘を追う側だが、呉荘令、しぶい、いかす。映画かドラマなら倉田保昭にやってもらいたい役どころだ。




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