本読み月記


【ジャンル分け】 最初から日本語で書かれた小説。
最初から日本語で書かれた小説以外。
日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説。

日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説以外。

コミックス



『偉大なるしゅららぼん』 万城目学 集英社

図書館。
他者の心を操る力をもつ日出家。
その分家に生まれた「僕」。
高校進学とともに本家で修業することになった「僕」が、同い年で同じ高校に通うことになった本家の跡取息子淡十郎のお殿様っぷりに圧倒されたり、同じクラスに「僕」の属する一族の不倶戴天の敵である他者の動きを操る力をもつ一族の息子がいたり、やはり同じくクラスに新しく赴任してきた校長の娘がいたり、その娘に淡十郎が恋をしたり失恋したりしているうちに、校長が圧倒的な力でその二つの一族を琵琶湖畔から追い出そうとする事態に直面することになる話。
普通の青春小説と伝奇ファンタジーが合体している作風はあいかわらず。
名前にさんずいのつく漢字をふたつ以上つけてはいけないことの通称「二度付け禁止」愉快♪
淡十郎の姉の清子さんと「僕」の師匠になるパタ子さんが「キヨティー」「パティー」と呼びあうとこ、大好き。
最終的な解決方法は荒業だったが、源爺が幸せそうだったからいいやー。
ところでこの解決方法と同じことが他の小説や映画で起こるたびに思うのだが、その効果が及ぶ範囲とはどのへんまでなのだろう? だってどこで区切っても、区切った内側と外側に齟齬が生じるっしょ? ということは、宇宙全体?



『ガラスの仮面』48 美内すずえ 白泉社

新品購入。
楽天ブックスに予約して、二月に届いて読んでいたのだが、届いたその日がRP祐子と映画に行く日で、ダッシュ読んで持ってって貸し出して、そのままここに書くのを忘れていた。
gree「しろつく」のぷよりんのイベント時短書き込みのおかげで、書き忘れてたことに気づいたよー。
ありがとう、ぷよりん。



『エドガー・ソーテル物語』 デイヴィッド・ロブレスキー(訳:金原瑞人) NHK出版

図書館。
予約したきっかけは朝日新聞読書欄だったか広告だったか。
たぶんそこにも載ってたんだろうな、「スティーヴン・キング大絶賛」の言葉が。
考えてみたらわたし、スティーヴン・キングは何冊か読んだけど、この人の書くもんが面白かった試しがない奴なんだよな。
この『エドガー・ソーテル物語』、シュルツという男が農園を作るくだりや、食堂を営む村の魔女アイダ・ペイン関連のエピソード等、最初のほうはわくわくさせられたが、そのあとはもうなんかだらだらめりはりなく話が進んで、間に脈絡なく主人公のじいさんがソーテル犬を作り出したエピソードなんかが挟まり、さらにだらだら進んだ挙げ句に最後はあれかい。
てか、お話書くのに慣れてない人が小説を書こうとして、書いてるうちにどんどんどんどん最初のプランから反れていったような、素人くっさい

お話で、なんで
こんなくそ面白くない辛気臭い

小説
がアメリカで140万部も売れて、世界25カ国で翻訳されてんのか、わたしぜんぜんわかんないーーーーー。

そんで犬が出てくる。
わんさか出てくる。
そしてわたしは犬が好きだ。
猫も大好きだが犬も大好きだ。
が、この人の描く犬のシーン、ほとんどまったくちっとも、心を動かされなかったんです。
映画「hachi」の10秒予告編で鼻噛まないといけないくらい泣いた女が。
ティファニーを助けるために雑踏を短い足で失踪するベンジーに涙で画面が見えないくらい泣いた女が。
ほんとにくそつまんねー小説だったが、最後のシーン、農場で飼われてた犬たちが農場のまわりをうろついていた野良シェパードとともに森へ行くシーンはなんだか心に残りそうで、それもなんかイヤーーーー。



【シーシアス】
『エドガー・ソーテル物語』に、エドガーの祖父であり、エドガーの両親が繁殖させているソーテル犬を作り出したジョンに宛てた、盲導犬に向いた犬種を繁殖させている人からの書簡によると、ジョン・ソーテルは彼がよいと思った犬の血をどんどん入れて、ソーテル犬を作り上げたらしい。
新しい犬種を作るには、まずは近親繁殖を繰り返し、必要と思われる特徴を固定させるはずなので、どうしてこの方法で繁殖させても同じ特徴をもつ「ソーテル犬」が作り出せたのか謎なのだが。
そしてこのくだりを読んで思い出したのは。

「とんでもない。ラーチャーですよ。ダムが飼っているアイリッシュ・ウルフハウンドの血が半分混じってるのと、グレイハウンドをかけ合わせたんだ。で、そいつの親犬はディアハウンドとグレイハウンドをかけあわせた犬で、その一代前にはウィペット種とシープドッグが入ってるんだ。これ以上のいい血筋はありませんぜ」
「それじゃあただの雑種じゃないか」
「いいや、旦那、ラーチャーですよ。ラーチャーはドッグ・ショーには出ませんが、これ以上の犬はとても望めやしません」

『プリンセス・デイジー』(ジュディス・クランツ 訳:小沢瑞穂 新潮文庫)上巻248頁での、デイジーの父スターシュとジプシーとのやりとりである。
これ、すっごく、ソーテル犬っぽくないっすか?

こんな血筋に生まれた仔犬たちの一匹、後ろ足の片方が少しだけ短く生まれてきた仔犬は、後ろ足の片方が少しだけ短く生まれてきたおかげで、デイジーに飼われることになり、「シーシアス」と名づけられる。
このシーシアスがステキなのだ。
後ろ足の片方が少しだけ短いせいでほろ酔いの酔っ払いのような足取りで歩く、生まれながらの盗っ人で、無法者。

デイジーの父が亡くなり、デイジーがアメリカに渡ってサンタクルス校の寮に入ったときも、学費が払えず大学を中退し仕事を求めてニューヨークに出たときも、デイジーはつねにシーシアスを伴っていく。
広告ディレクター助手となったデイジーがコカコーラのCMに「なるべくややこしい犬」が必要となったときに己が愛犬を起用するシーンなど、何度読み返してもとびきり愉快である。

ノースは横柄な態度でシーシアスを点検した。「デイジー、いったいどこでこいつを見つけたんだい? こんなの今まで見たことがないよ」
「ご心配なく、すごく出来がいいって折紙つきよ」
「しかし俺はもっとどうしようもない犬が欲しかったんだけどな。本当に毛むくじゃらでもっとだらしがなくて」と彼は文句をつけた。
「どうしようもない点でも保証つき」とデイジーは請け合った。彼女は、その場面に出てくる役者たちのポケットというポケットに、サーロインの小間切れを用心深くかくしておいた。そもそも服を選ぶ時から、ボタンのついたポケットの有無を確かめて選んだぐらいである。そういう下準備にはおこたりなかったから、彼女はシーシアスの演技には全幅の信頼を寄せていた。猟犬の血がさわぎ出せば、ラーチャー犬にとっては楽園のような場に放り出されたこの不運な人々に、シーシアスがつきまとうことは火を見るより明らかだった。
案の定シーシアスは彼女の顔をつぶしはしなかった。撮りなおしのたびに彼はぎゅうぎゅう詰めの車の中に跳び乗り、八人家族の中にもぐりこんで体のすみずみまで鼻を突っ込み、怒り狂った彼らの顔に尻っぽをぶんぶん振って、無礼きわまりない探索に我を忘れていとしげにみんなの体中に手をかけたのである。


(上巻417頁418頁より無断転載)

そのあとの、デイジーの親友でこの撮影現場にシーシアスの世話係として来ていたキキと、広告プロデューサーのルークの運命的出会いも、シーシアスのお手柄といえないこともない。

キキは、ポケットに隠された肉を一日中嗅ぎまわっていたシーシアスがすっかり可哀そうになったので、その場面が撮り上がってOKが出た途端に革ひもからはなしてやった。
「失礼ですが、犬係りのお嬢さん」とルークはキキに言った。「あなたの犬がケイタリング・サービスのテーブルにのっかって、混乱と飢餓のもとになってるのをご存知でしょうか?」

(上巻420頁より無断転載)

幕間劇のように挟まるルークとキキが結婚するまでの成り行きも、この小説のとびきり楽しい部分のひとつ。中でも何度読み返しても大好きなのは、彼らが母親同士をひきあわせるところ。
シーシアスに話を戻す。
それでいて彼は愛情深く、デイジーがきずつき怯えるとき、そのかたわらにそっと寄り添う。

ペタペタと足音を立ててバスルームに入ってきたシーシアスには、デイジーの沈んだ気分が分かるらしい。まだ少女の頃よくそうしたように、シーシアスは彼女の肩に両の前足をのせ、彼女の鼻の頭をなめた。「お前は本当にかわいいラーチャー犬」と呼びかけた。デイジーは自分が泣いているのに気づいた。シーシアスはその涙をきれいになめてしまう。

(下巻44頁より無断転載)

この『プリンセス・デイジー』、アメリカでは大ベストセラーになったそうなので、『エドガー・ソーテル物語』の著者もひょっとしたら読んでいて、ソーテル犬なるものを想像した元になったかもしれない。
が、犬の描き方では、『プリンセス・デイジー』の足元にも及ばなかったと思う。
これまでお話にでてきた犬の中で、正直、シーシアスはわたしのナンバーワンドッグだ。
というわけで、犬好きの方には絶対お奨め、『プリンセス・デイジー』。




『HUNTER×HUNTER』30 富樫義博 集英社

新品購入。
蟻編が終わり、ハンター協会の新しい会長を決める選挙編へ。
不発に終わったと思われたネテロの「貧者の薔薇」が蟻撲滅決定打になるとは思わなかった。
王とコムギが軍儀を打ちながら静かに最後を待つところ、「力いっぱいブン回しても壊れない」(『三月のライオン』羽海野チカ 5巻より)相手を得たふたりが、死を前に心の底から軍儀を楽しむところ、そして最後の静かな会話、ベタだけでの中でふたりの会話だけが続くところ、なんというか、心にしみじみとしみた。
そして会長選定編でゴンの父ジンがついに登場。
200、201頁のこれまで登場したハンターたち、懐かしかった。
しかし確かゴンって主人公だったよな?
この巻、生命維持装置の中に入ってる影だけ…。



『百鬼夜行 陰』 京極夏彦 文藝春秋
『百鬼夜行 陽』 京極夏彦 文藝春秋

新品購入。
確か「陰」から読み始めたはずなのだが、途中でよくわからなくなり、気がついたら両方読んでしまっていた。
京極堂シリーズに登場した人物たちをそれぞれ主人公とした短編集。
関口や榎木津のも一編づつ。これはさすがに読み始めてすぐわかったが、他のはたいてい最初はどれに出てきた誰の話かすぐには思い出せず、中には最後まで読んでも「…誰?」な人も。



『日本人の知らない日本語』3 蛇蔵&海野凪子 メディアファクトリー
『キッズログ』2 葉芝真己 幻冬舎コミックス

RP祐子蔵書。サイテーカラオケ持込本。
『日本人の知らない』、今回も興味深く面白かったーーー。
日本語がそれなりにわかる外国人にわかりやすい日本語の使い方、これって翻訳ソフトを使うコツに似ている。
『キッズログ』、作家と保父さんは最終的にはくっつくもんだと思って読んでたんですが、RP祐子によると、葉芝真己、ホモロマンスでない話も書くから、設定がいかにもホモロマンスものっぽいからといってそうなるとは限らないらしい、へーほー。







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