本読み月記


【ジャンル分け】 最初から日本語で書かれた小説。
最初から日本語で書かれた小説以外。
日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説。

日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説以外。

コミックス



『天平グレート・ジャーニー 遣唐使・平群広也の数奇な冒険』 上野誠 講談社

図書館。
時は西暦733年、平城京が開かれて23年目の天平五年、この年に唐へと送り出された遣唐使。
彼らの「行きて帰りし物語」を、復路では第三船の指揮をとった平群広也をメインに、資料と想像力を駆使して描いた物語。
時の帝は聖武天皇。時の唐の皇帝は楊貴妃に溺れたので有名な玄宗皇帝。いま調べてみたら、安禄山の乱が始まったのは755年らしいので、それより22年前。



『もののけ本所深川事件帖 オサキ鰻大食い合戦へ』 高橋由太 宝島社
『もののけ本所深川事件帖 オサキ婚活する』 高橋由太 宝島社

図書館。
N塚長姉から第一作を借りて読んだら面白かったが、長姉はその後買ってなくて、そのうち図書館で借りようと思って忘れていた。
第一作は、設定も筋運びもそんなに目新しい話ではないのに、語り口がみょうちくりんというか、話がどこに向かってるのかわかりにくいとこが面白かったが、この二作三作は、わりかし普通の話であった。
でも「鰻大食い合戦」、ベニさまを大事に祀っていた鰻屋の母娘の商いがうまくいくようになったのはよかったし、レギュラーの剣術の達人蜘蛛之介がどっちでも愉快であった。



『聖痕』 筒井康隆 朝日新聞朝刊連載

連載を読んだ。
新聞連載小説を読みとおしたのは生涯たぶん二回目、大昔、スポニチで連載されてた村上龍の『音楽の海岸』以来である。
人並みはずれて美しく生まれついた男の子が、その美しさに血迷った男のせいで幼くして性器を切り落とされ、無性の状態で生きていく話。
古語がいっぱい使われてて、時には最後五分の一くらい、言葉の説明だったりしたのが面白かった。
そもそもの性器を切り落とされた事件や、主人公の弟が祖父を階段から突き落として死なしてしまう事件なども起こるのだが、「続き、早くーーー」な逸る気持ちをぜんぜん起こさないというか、毎日ちょっとづつたらたら読むにはちょうどよいというか、変な話であった。



『永遠の薔薇・鉄の貨幣』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス(訳:鼓直・清水憲男・篠沢眞理) 国書刊行会

図書館。
詩集。
うちにあるボルヘスは二冊、『幻獣辞典』と『怪奇譚集』。
『伝奇集』と『夢の本』は図書館で借りて読んだような気がするけど、そんだけくらいしか読んでないよな、と思って堺市図書館蔵書検索したらかかりつけの中図書館の書庫にこれがあり、借りてみたら詩集であった。
二冊の詩集を一冊にまとめたもので、『永遠の薔薇』が1975年、『鉄の貨幣』が1976年、刊行されたもの。
詩はほとんど読まない。
筋がないものがほとんどで、退屈だから。
が、借りてきたのでしょうがなしに読んでみたら、これ、面白かった。
「自己」「ブラウニング 詩人になる決意をする」「財産目録」「剣」「小夜鳴き鳥に捧げる」「十五枚の貨幣」「アロンソ・キハーノは夢みる」「プロテウス」「ブルナンブール 紀元九三七年」「護符」「オリエント」「永遠の薔薇」「悪夢」「異端審問官」「ヘーラクレイトス」が好き。
『鉄の貨幣』には短い散文も二編入っていた。「紀元九九一年」と「敵にまつわる挿話」。「紀元九九一年」はゲルマン人に襲撃されるウェールズ人の話。「敵にまつわる挿話」は悪夢。
北原白秋の「千利休」みたいに、誰か別の人の内面をさぐる詩、その人の成長をきっちり描くのではなく、その人のある瞬間を切り取ったみたいな詩が、特に好ましかった。



『盤上の夜』 宮内悠介 東京創元社

図書館。
将棋や麻雀等の卓上ゲームを題材にしたフィクションの形をとった短編集。
「盤上の夜」が将棋、「人間の王」がチェッカー、「清められた卓」が麻雀、「象を飛ばした王子」がチェス、「千年の虚空」が囲碁。
お釈迦さまの息子を主人公にした「象を飛ばした王子」が一番面白かった、かな? あとチェッカーの無敗の王者の心をさぐった「人間の王」も。
「盤上の夜」は、設定はセンセーショナルなのに、そのセンセーショナルさと内容が、なんだかちぐはぐな感じだった。「千年の虚空」もなんかいまいち何が描きたかったのか、よくわからなかった。「清められた卓」はオチが面白かった。
囲碁といえば、少年倶楽部のかわりに囲碁の対局が録画されてたり、少年倶楽部の最初にその前の囲碁の対局番組の最後のとこだけ入ってたりは、ジャニヲタあるあるなのだが、そのせいで顔を知った棋聖の張栩さんて人、濱ちゃんにちょっと似てる。



『ちはやふる』20 末次由紀 講談社

新品購入。
ちはやVS真島の決着と、修学旅行さぼって名人戦予選に挑む真島と、それに気づいてちはやが心揺れる話。



『屍者の帝国』 伊藤計劃、円城塔 河出書房新社

図書館。
時は20世紀初頭。
生きた人間−死んだ人間=霊素スペクター
人間の死体に偽の霊素を吹き込み制御のためのドライバをインストール、さらにさまざまなプラグインを入れることによって単純な肉体作業に従事させることができる、「屍者化」の技術が実用化された、もうひとつの20世紀初頭。
ケンブリッジの医学部に学ぶ医学生ジョン・ワトソンはイギリスの特務機関にスカウトされ、通訳兼記録係の屍者フライデーを伴い、最初の屍者ザ・ワンの痕跡をたどり、世界を巡ることになる。
ヴァン・ヘルシング教授、マイクロフト・ホームズ、初代リットン伯爵、グラント将軍、アレクセイ・カラマーゾフ、山澤静吾、川路利良、大村益次郎、ハダリー、レッド・バトラー、チャールズ・ダーウィン等、この時代の実在とフィクション上の人物が入り乱れるのは、実に愉しかった。が、ワトソン博士の相棒となるバーナビー大尉、この人って実在の人? フィクションの人? ググっても不明。
カラマーゾフといえば、ドストエフスキーは大学のときに『悪霊』読んだきりで、それ以外には大島弓子が漫画化した『罪と罰』を読んだだけで、『カラマーゾフの兄弟』はタイトルしか知らなかった。そういう白紙の状態でドラマ「カラマーゾフの兄弟」を毎週楽しく観ていたところ、最終回前にこの本の予約順が回ってきて読み始めたら、69頁70頁にカラマーゾフ家の三兄弟のその後が記されてて、やってしもおた♪と思ったら、ドラマは違う結末であった。
ともあれ、施設での屍者化プロセスはともかく、その後のドライバ等の更新がなぜ無線状態でできるのかがようわからんかったり、はあったものの、楽しく読み進んだのですが。
ザ・ワンが実は屍者ではなかったあたりであれれ?となり、株菌が意識を作るあたりでだからなんでその株菌は人間だけに寄生すんだ?とつっこみをいれ、クライマックスのザ・ワンVSヘルシング教授のとこに至っては、こむずかしいっぽく奥深そうに見せてるだけのB級アニメな展開にぐぐんと盛り下がったわー。
んー、これ、どこまで伊藤計劃の原案で、どこまで円城塔が考えたもんなんだろう?
伊藤計劃は長編二冊と短編一作を読んだが、円城塔ってペンネームの美しさにつられ何度か借りてきかけては読むに至らず、いまだ一冊も読んでないので、今のところそれを測るものさしが私にはないんだけど。
レッド・バトラーが素敵であった。なんというか、「風とともに去りぬ」のレッド・バトラーは魅力的であってもいまいちよくわからない人物だったが、この本に描かれたレッド・バトラーによって、やっと彼について納得がいった気がする。

そしてピンカートンの仕事でバトラーが世界を飛び回る中、タラへ帰った彼の妻はどうしてるのだろう。

ところで「風とともに去りぬ」、初めて観たのはテレビ放映。
スカーレット・オハラの吹替は栗原小巻であった。
なので、「タラへ帰りましょう」の言葉など、頭に残っているのはこのときの声で、英語音声で観るのには特に問題はないのだが、日本語吹替で観ると、いまだに違和感を覚える。
そういえば「スター・ウォーズ」を初めて観たのもテレビ放映で、レイア姫の声は大場久美子であった。なので「オビワン・ケノービー、あなただけが頼りです」の言葉はいまだに大場久美子の声で残ってて、やはり他の人の吹替だと、いまだに違和感を覚える。
どっちも、放送局には音声、まだ残ってるのかなあ。




『PK』 伊坂幸太郎 講談社

図書館。
「PK」「超人」「密使」の三篇入り。
「PK」は、書き上げた小説の改変を強要される売れっ子作家、虚偽の証言を強要されている就任したての大臣、10年前のワールドカップ予選でPKを決めたサッカー選手とそのチームメイト、その三つの話が見事に入り組んだ「臆病は伝染する。しかし勇気もまた伝染する」お話。
ものすごく爽快な種明かしがあるのだが、途中で語られる勇気ある決断をした人々のその後が怖い怖い後味として残る。
「超人」は「PK」の続編ではないが、同じ世界の話。
「密使」はアンソロジー『NOVA』5に載ってた話。握手することで相手から6秒だけ時間を盗める男の話。




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