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本読み月記


【ジャンル分け】 最初から日本語で書かれた小説。
最初から日本語で書かれた小説以外。
日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説。

日本語以外で書かれたものを日本語に翻訳した小説以外。

コミックス


『警視庁草紙』上下 山田風太郎 河出文庫

図書館。
かかりつけの堺中図書館で開架漁ってたときにふと、そういや山田風太郎の明治もの、『エドの舞踏会』と『幻燈辻馬車』読んだきりだが他にもあるかな?と検索したら中図書館の書庫にこれがあったので借りてきた。
明治6年、東京を立とうとする西郷隆盛を川路利良が見送る場面から始まり、奇妙な変死事件が起こり、三遊亭円朝が登場し、そして。

「親分! 親分はいますかい!」
 格子戸の音とともに、威勢のいい声が聞こえたかと思うと、家人の案内も乞わず、すぐにひとりで上がって来て、がらりと唐紙をあけると、
「半七親分、大変だ大変だ」
と、立ったまま叫んだ。
(29頁、30頁より無断転載)

あら、あらあらあら、と思いながら読み進めれば。

 浅黒い、おだやかな長い顔をして、まるで町人か芸人の隠居のように見える。--この家のこの座敷に、小説家の岡本綺堂が訪れて、このあるじからいろいろと昔話を聞いたのは、さらにこれから二十年ばかりたってからのことだが、(31頁より無断転載)

6月19日16時頃の京浜東北線車内でこのくだりに差し掛かり、半七親分の思いがけない登場の嬉しさに無言で足をばたつかせていた不審なおばはんはわたしです。
ま、半七親分は最初だけで姿を消し、あとは川路vs元江戸南町奉行「隅のご隠居」こと駒井相模守に収斂してくんですが。
江戸から今の東京へと姿を変える黎明期の東京二十三区、造営したての銀座、廃墟のような新宿、ところどころに現れる歴史上の人物たち。
とはいうものの、幕末明治がいまいちよくわからないので名前は知ってるけど何したのかよくわからない人や名前すら知らない人もいっぱい出てきて、のんびりたらたら読んでたのがいきなり拍車がかかったというか目が覚めたのは下巻も半ばあたりの「吉五郎流恨録」。
この章の主役はそれまでも登場していた掏摸の吉五郎。
なので、あれ? この人警察に捕まったんだっけ?と思いながら読んでたら三宅島へ流罪に。
そこでやっと吉五郎の昔の話だったことに気づく。
三宅島での暮らしをなんとか生き延びて本土へ帰ったのは十五年後の明治五年、場所は明治五年の横浜。
そして最後にあっと驚く結末が。
思わずwiki確認したわ。
私は吉田松陰のこれのことなんかまったく知らずに読んだのであっと驚く為五郎だったけど、幕末明治に造詣深かったり吉田松陰マニアな人なら、吉五郎が三宅島に流刑になるとこから、よっしゃあれかっ!なんでしょうね。


ところでわたし、岡本綺堂の『半七捕物帳』、どこまで読んだっけ?
iPhoneⅩでキンドルアプリ開くと、縦が長すぎて読みづらくて、横持ちして読むしかないけどそれもめんどくさくて。
あれ、縦幅変更できるようにして欲しい。>amazon御中



『明治波濤歌』上下 山田風太郎 新潮文庫

図書館。
中編集で「それからの咸臨丸」「巴里に雪のふるごとく」「風の中の蝶」「築地西洋軒」「からゆき草紙」「横浜オッペケペ」の六編入。
川路利良が井上毅、成島甲子太郎とともにパリに滞在したおりに起きた事件を描いた「巴里に雪のふるごとく」と、築地西洋軒というホテルレストランで次々に起きる決闘絡みの事件の真相に森鷗外を追ってきてここに滞在中だった「舞姫」エリスが見抜く「築地西洋軒」、樋口一葉の日記にある「相場師になろうと占い師の久佐賀義孝に接近し、借金を申し込む」を元にした「からゆき草紙」が面白かった。


うちは父が生まれた家も、父が養子に来た家の母屋(本家のこと)も、母が生まれた家も、どこも元は百姓だ。
さらにいうと、父の母が生まれた家も、母の母が生まれた家も、元は百姓だ。
どこをたどっても百姓だが、父の養父の父が生まれた家の仏壇からは「文明」(1469年~1487年)の日付のある手紙がみつかって、母の母が生まれた家は江戸の初め頃あたりまで檀那寺に記録が残っているのが、ちょっと、いや、かなり自慢だ。
しかもどこも田畑(ここでは「でんばた」と読んで)持ちの百姓で、しかもどこも堺市大阪狭山市、多くは南海高野線沿線だったもんで、持ってた田畑に思いがけなく値打ちが出て、どこん家もわりと結構な暮らし向き。
中でも凄いのは、父の従弟の嫁ちゃんのみっちゃんおばちゃん。
生まれたのはこの人も百姓ん家。持ってた田畑あったのは湿地帯。嫁入り先はもとばくろう。牛を育てて売っていた。が、みっちゃんおばちゃんがお嫁ちゃんなった頃は植木屋に転業し、みっちゃんおばちゃんの結婚相手は父親の植木屋を手伝わず勤め人をしていた。
嫁入りしたあと、実家のすぐそばに泉北高速鉄道が通り、しかも駅がすぐ近くに。湿地の価格高騰。
その後、嫁入りした家の近くにときはま線開通。土地はあった。ばくろうしてた頃の広い土地があった。元はばくろうだったので農地改革も関係なかったので小作にとられることもなかった。
というわけで、いまや地代収入だけで莫大。
なのに手持ちの土地で米やら野菜やら作ってて普段は農作業おばちゃん装束で軽トラックを乗り回している。
だけど年に一度はお友達とハワイにゴルフ旅行。
前世でどんだけ徳積んだんだ?
閑話休題。
というわけで、どこをたどっても百姓、なことを恥ずかしいと思ったことは一度もないのよ、一軒くらいお武家がいたらなあとかもあんまり思ったことないのよ、困ったもんだ。
で、上記の『警察草紙』と『明治波濤歌』のあちこちに登場するお武家さんの困窮加減に、ご維新の頃はほんとに大変だったのね、お武家さん、特にお旗本たち、としみじみ。
いわれてみればお武家さんて自宅以外、自分の土地って持ってなかったんだなあ。
いや、自宅もいわば藩の持ち物、社宅みたいなもんだったんかな?

ところで前から思ってるのだが、日本の企業、というか日本人て、江戸時代の藩政では「当たり前だった」ことや「価値基準」をそのままおかしいと思わずに受け継いでないか、と。
正社員 = 藩士 (人員過剰でもなんらかの不祥事なければ人員削減できなかった)
新卒 = 藩士の家の跡継ぎが親の隠居に伴い、親の仕事をそのまま引き継ぐこと。
学校に合格しなかったり新卒採用で採用されなかった人 = 浪人 (そのまんま)
単身赴任や家族連れての転勤 = 江戸詰め 異封
正社員が契約社員や派遣社員をハブったり、下に見たりは、『お登勢』で読んだ徳島藩の上士下士制度を思い出すし、新卒が学校で学んで身につけた能力がまったく生かせない関係ない部署に配属されるのも、藩士ん家に生まれた跡継ぎはよほどのことがないかぎり才能とかに関係なく親の仕事をそのまま引き継ぐだけ、しかも特に必要のないすっげえくだらない仕事も多かった、だったのの鏡写しみたいだし。
そしてこのシステムや価値観を自覚なしに引き継いでしまっていることの最大の問題は、藩の「正社員」である藩士たちの仕事の大半が藩の収益を増やすことと無関係な仕事だったこと。
うーん、わたしが考えつくくらいだから大勢が考えついてると思うので、こういうの誰かまとめてくれてる本ってないんかな?
と思ったとこで思い出したジーン・ウルフの『書架探偵』。
新しい作品書けないのか…、著者のクローン作って図書館に置く意味…と思ったが、もし図書館に小松左京が蔵者されてたら、思いついたことについて小松左京がどう思うか、図書館行ったら訊けるねんね。



『ポーの一族 ユニコーン』 萩尾望都 小学館

新品購入。
こないだ41年ぶりの新刊出たとこなのにもうまた新刊がーっっっ!と思ったら、前巻『春の夢』が出て買って読んだのは一昨年、2017年であった。
マツコがよく「40歳越えたら時間の経つのがあっという間よ」と村上さんに言い聞かせてるが(痛い人いじりになってからほとんど見なくなったけど、「月曜から夜ふかし」)、マツコよ、そこからさらに加速するんだぞ、ほんまびっくりするぞ。
『春の夢』は第二次世界大戦中のウェールズでの話だったが、今回はなんとっ、2016年っ!!! 5巻「エディス」でエヴァンズ家が燃え落ちてたのが1976年、5巻最後から40年後っっっ!!!
触れるものの生気を意図せずに吸い取ってしまう状態になったエドガーが炭状態?のアランを入れた鞄を抱える2016年と、1958年のベネチアでのできごと、ルチオの始祖が明かす不死の一族の起源、そして9世紀頃(「今より1000年以上前」かつ老ハンナがポーとなった8世紀以後)のイギリス。
そして1958年の途中で突然「次巻に続く」…。



『クマとたぬき』2 帆 KADOKAWA

新品購入。
帆さん(twitter pixiv)の紙の本の『クマとたぬき』第二巻。
全部のページが好き、ほんともうたまらん好き。
最後の「おまけ 動物園」もほんとにありがとう。

狸といえば、狸が世界的にみれば珍しい動物だったことを知ったのは前巻読む少し前だったが、この2巻読んだ頃に回ってきたツイート「たぬきが海外ではファンタジー存在だと思われてるという話聞くたびに、お前らニンジャは今でも実在すると思ってるくせになんでたぬきの実在は疑うんだよって気持ちになるな」に目からうろこ。
wiki(英語)の「Japanese raccoon dog」の頁。



『生物学者セオ・クレイ 森の捕食者』 アンドリュー・メイン(訳:唐木田みゆき) 早川書房

図書館。
図子慧がこの本についてツイートしてて予約。
生物情報工学者のセオ・クレイがフィールドワーク先のモーテルで殺人事件の容疑者として地元警察に「確保」されるとこから始まる。
被害者は元教え子。
彼女を殺したのは熊だということになりセオ・クレイは解放されるが、犯人として射殺された熊について調べてみたことから「はたして本当に熊が殺したのか?」と疑念を抱いた彼は独自に調査を始め、世間から認知されていなかった連続殺人犯の存在に気づいてしまう。
吉野朔実の漫画で友人を殺した男が「2メートル埋めれば大丈夫」と言いながら殺した友人を埋めるシーンを見て以来、山中などで遺体が発見されて犯人が捕まるたび、「掘って埋めるのを無精したのね」と思い、それと同時に大昔の対ゴキブリ殺虫剤のCM「1匹見かければ30匹」(だったっけ?)も思い出して、ちゃんと埋めたり、埋めなかったけどみつかってない殺人事件の被害者の遺体どのくらい…、と思う。
ので、セオ・クレイの元に犯人から電話がかかってくるあたりまでは行け行けどんどんだったのだが、そのあとの展開は怖すぎて飛ばし読み。
あとがきによると、著者は著名なマジシャン。
wiki(英)「アンドリュー・メイン」。



『セミ』 ショーン・タン(訳:岸本佐知子) 河出書房新社

図書館。
絵本。
予約してた順番回ってきて、借りて、エレベーターで地下の駐車場着くまでに最後まで読んでしまった。
地下1階で親子連れがエレベーター待ちしてたが、エレベーターの扉が開いたとき、わたしなんともいえない顔をしてたと思う。
元の文章は知らないが、凄い凄い訳だと思った。
セミが階段登るとこまでは、ほんとに怖くて怖くて辛かったが、そのあとの結末に、なんでかわからんがなんともいえないカタルシスを覚えてしまった。
トゥク、トゥク、トゥク。











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